Z1000R2 Y.K様 ワークスS1仕様製作 分解点検で問題多発

 

ワークスS1仕様製作のご依頼です。車両は遠方のオーナーさんから輸送業者を使って運ばれてきました。現在は市販パーツを多用してS1仕様になっています。

 

合わせて追加で使用するパーツ類も送られてきました。

 

数セットあるフォークは、組み替えて一番いい部品を使用します。メーター周りもマルメーターに変更予定。

 

タンクは改造してからR1カラーに塗装します。キャップの前にはS1ブリーザーを取り付けます。

 

コックはS1同様に後方に移設します。今回は左側の1ヵ所のみです。

 

ブリーザーを溶接します。タンク側には2ミリの穴を開けてあります。

 

元のコック穴を溶接で埋め、後方にM22ミリネジのコックアダプターを溶接します。最後にエア圧で漏れチェックします。

 

車両に載せて取り付け確認します。

 

コックはキャブの後ろになります。コック自体は実車と同じならZ1100B2のコックがいいですが、ピンゲルのM22タイプでもOKです。

 

タンクは実車同様にマウントを2センチ上げるので、このベロがシートに干渉しないよう少し下向きに曲げておきます。

 

ブリーザーはこんな感じ。使用している素材はBL-FACTORY製です。

 

ステアリングダンパーはボルトオンのブラケットで取り付けられていますが、今回はS1同様の溶接ブラケットを取り付けます。ステダン自体はセルフステアを阻害し、低速ではハンドリングを悪化させるので付けない方がいいですが、今回はダミーとして取り付けます。

 

ステダンの裏側、この部分はJ系フレームではよくクラックの入る場所です。このフレームも例にもれずクラックが入っていますね。これは溶接で補修しておきます。

 

バッテリーは液面が下がって電極板が露出しているセルもありますね。液入りの従来タイプはこまめなバッテリー液の管理が必要です。今回はメンテナンスフリーバッテリーに交換予定です。

 

メインハーネスなど、電装品も全て外します。

 

チェーンは張り過ぎの感じ。

 

リヤショックのストロークは90ミリほどあります。

 

チェーンの張りを確認するので、リヤショックを外してホイールを持ち上げます。

 

持ち上げている途中でどこかに当たって止まりました。ミッションのアウトプットシャフト→スイングアームピボット→リヤアクスルが一直線に並ぶところでチェーンが最も張りが少なくなりますが、それ以前の現状でもうチェーンはパンパンに張っています。完全に張り過ぎな状態ですね。このまま走行すると、3軸のベアリングに致命的なダメージを与えるので、チェーンの張り方はよく解った上で厳密に管理しないといけません。

 

スイングアームが当たっていたのはリヤマスターでした。この状態で走行していないとのこと。走っていたら確実に破損していました。

 

正しいチェーンの張りになるよう調整します。かなり緩めることになりました。

 

その状態でリヤショックを復元します。ジャッキアップ状態だとこのようにダルダルになるのが張りの限界値となります。これ以上張っては厳禁です。下にガイドローラーがあるのでバタつきは抑えられるでしょう。

 

チェーンを外してみると、フロントスプロケはグラグラします。ロックワッシャーも曲げてあり、一見するとしっかり締まっているように見えますが。

 

動画で見るとこんな感じです。グラグラしているとスプラインを痛めるので完全固定でなければいけません。

 

ナットとロックワッシャを外すと、スプロケの外面よりシャフトのスプラインが出っ張っていました。これではスプロケが固定されませんね。スプロケを外します。

 

オイルシールの圧入も浅く、スプロケ背面がオイルシールに擦っていました。J系の場合はミッションケース裏側とオイルシールが面一になるよう圧入する必要があります。そうすると表側は2ミリほどオイルシールが沈んだ状態になるのが正解です。これでは明らかに圧入不足です。

 

オイルクーラーホースを外すと、ネジ部とテーパー部分にかけてシールテープが巻かれています。これはレーシングパーツを理解していない人の仕事ですね。よく見かけますがANタイプのフィッティングにシールテープ使用は厳禁です。

 

エンジン側にもシールテープが使われています。

 

オイルクーラーコアの裏側はこんな感じにへこんでいました。

 

アッパーブラケットのボルトと干渉していたようです。普通、このボルトはボタンヘッドなど低頭の物を使用するべきです。

 

スポンジを剥がすとコアそのものが陥没しているのがわかりました。今にも穴が開いて漏れそうなので、このコアはもう使用できません。交換します。

 

リヤタイヤをよく見ると、少し右側によっているように見えますね。

 

スイングアームとタイヤの隙間も、明らかに右側の方が狭いです。

 

ホイールを外して点検します。

 

スプロケボルトは長さが足りず、強度の低い薄型ナットで尚且つセルフロックのスプリングがほとんどかかっていません。

 

スプロケの裏側にはスペーサーが入っていました。本来はボルトを長い物に交換するべきですね。

 

リヤホイール周りのアライメントを計測します。

 

リムの位置を測り、リム幅からホイールセンターを割り出します。

 

計測結果はこちら。現状は4.25ミリホイールが右にズレていました。チェーンラインはノーマルだったので、フロントスプロケットのオフセットとも合いません。

 

スイングアームは左右対称にできているようです。

 

リヤアクスルは左右にナットを持つタイプです。

 

左右ともこのようにシャフトがエキセントリックにかかりません。細いネジ部に剪断力が掛かる構造は、設計として強度が低いといえます。これに貫通シャフトを通そうとすると、左右のエキセンの並行が出ていないので通りません。精度の悪さをここで吸収する作りのようです。

 

スイングアームを外して更に点検します。

 

ピボットベアリングはテーパータイプでした。ディスタンスカラーは無い仕様です。

 

アウターレースには圧痕があります。基本的に貫通シャフトでディスタンスカラーが無い構造のピボットにテーパーローラーベアリングを組み合わせた構造のスイングアームは、プリロードとピボットシャフト締め付けトルクの確保が両立しません。締め付けトルクはフレームの剛性に依存し、規定トルクの8kg・mを掛けようとするとフレームがすぼんでプリロード過多となります。プリロードを適正にすると締め付けトルクが圧倒的に足りず、ピボットは走行中にガタつくことになります。よって、スイングアームとして成り立たない構造といえます。このようなテーパーローラーベアリングをピボットに持つスイングアームは、ベアリングハウジングが広がって破損していることも多くみられ、使用しない方がいいでしょう。結局スイングアームは交換することになりました。